1 血圧は加齢で上がる

血圧は必要です
血圧は絶対に必要です。たとえば図のキリンは、脳に血液を送るために高い血圧が必要です。血圧が下がったらキリンは死んでしまいます。

健康の基本は「血のめぐり」を良好に保つことで、そのためには適正な血圧が必要です。体のすみずみまできちんと血が通っていれば、人はそうそう病気にはなりません。これが生命の原理原則です。ところが世の中では今、「血圧は低い方がよい」という誤った情報が、医療者から強力に流されています。そのために多くの人々が不必要に血圧を下げて、ならなくてもよい病気になっています。もちろん高血圧で、めまいがするとか、頭がズキズキするとかの自覚症状がある場合や、血管が破れるリスクが明らかに高い場合は、緊急に薬で血圧を下げる必要があります。しかし、そうでない場合は血圧はむやみに下げてはいけません。人は死ぬとき血圧が下がります。血圧は生きるために必要なのです。

血圧が上がるわけ
人は年を取ると血圧が上がってきます。それはシンプルな物理現象です。それは中学の理科で習った電流の式にあてはめると簡単に理解できます。
       電圧 = 電流 x 抵抗
電流と抵抗を掛けると電圧になります。電池で豆電球を1個点灯しておいて、電球を2個(直列)にすると明るさは半分になります。電池の電圧は一定ですから、電球が2つになって抵抗が2倍になれば、電流が半分になるわけです。電流が半分になれば明るさも半分になります。

では明るさを変えないためにはどうしたら良いか。電池を2個(直列)つなげばよいのです。そうすれば電圧が2倍になるので、抵抗が2倍になっても電球2個は、1個の時と同じ明るさで点灯します。

血圧もこれと同じです。
□□□□血圧 = 血流 x 抵抗
人は老化すると、血管の抵抗が増えて来ます。血管壁が硬くなったり、血管内に汚れがたまったり、血液がドロっとしたりしてくるからです。これは老化現象ですから避けられません。
仮に抵抗が2倍になったとすると、この公式から、血流を元通りに保つには血圧を2倍にしなければならないことが分かります。もし血圧を2倍に上げることができないと、血流が減ることになります。すると電球が暗くなるように、生命体は元気がなくなります。

心臓には余力がある
生命体にとって最重要なことは、血流を保つこと、すなわち電球の明るさを保つことです。ですから、人の心臓は少々抵抗が増えても、血流を保てるように余力を持っています。心臓は普段は静かに動いています。これが余力のある状態です。でも走ったりすると心臓がドキドキしますね。それが心臓がフルパワーで働いている状態です。

上の図は、血液が心臓から動脈を経て毛細血管に流れる様子を表しています。老化すると毛細血管の抵抗が増えます。すると、心臓にそれ以上の余力がない場合は、血流量が減ってしまうしかないわけですが、幸いなことに心臓には余力があります。心臓は若い頃と同じ血流量を送り出してくれます。上図で心臓の吐出量が一定とはそういう意味です。そして老化で抵抗が大きくなった毛細血管に、今までと同じ量の血液を流せば、自然に動脈での血圧が上がります。つまり心臓は今までどおり動いているのですが、抵抗が増えている分、血圧は自動的に上がるのです。たとえばホースで水をまく時、ホースの先をつぼめるとホース内の水圧が上がって、水は遠くまで飛びます。これと同じように、心臓は同じように動いていても、先の方が詰まってくると、その分、圧力が上がってきます。これはまったくシンプルな物理現象です。

この時、物理現象として理解しておくポイントは、圧力の最大値は元圧までだということです。ゴムホースで水圧が上がる場合も、最大で水道局の元圧までです。血圧も最大で心臓の吐出能力までしか上がりません。若いときは抵抗が小さいので圧力は上がりませんが、加齢で抵抗が増えてくると、だんだん上がってきて、心臓の吐出能力いっぱいまで上がるのです。それ以上に上がることはありません。

生命にとっては血流を保つことが最も重要です。必要な血流量は、年を取ってもそれほど変わりません。そのために心臓は余力を持っています。老化で少々抵抗が増えても、心臓はそれをカバーしてくれます。その分、血圧が少しずつ上がるわけです。
これを少し数値的に見てみましょう。仮に40代で血圧が130だったとして、10年間で抵抗が5%ずつ増えて行くとします。すると50代では血圧は、130x1.05=136くらいになります。この血圧でようやく40代の血流量が保てるわけです。60代では136x1,05=143くらいになり、70代では143x1.05=150くらいになります。これは心臓が健康だからできることで、祝福すべきことなのです。その様子をグラフにすると下のようになります。

つまり血圧は加齢によって上がるわけです。その方が良いのです。

とは言え、血圧が上がり過ぎると、血管が破れるリスクが増えます。ですからあまり上がりすぎない方が良いのも確かです。血圧が上がりすぎないようにする方法は、抵抗が増えて血圧が上がっているのですから、抵抗が増えないようにすることです。それには食事、飲水、入浴、睡眠、休息、運動、呼吸、瞑想、ストレッチなどが有効です。

ところがほとんどすべての医療者が、「血圧=血流x抵抗」の公式において、血圧を一定に保つことが最重要だと信じており、そのためには血流が犠牲になっても良いと考えています。ですからすべての医療対策は血流を減らす方向です。血圧降下剤はすべて、血流を減らします。生命の原理をまったく理解していません。

血圧のイメージ
ここで血圧とはどんなものか、具体的にイメージしてみましょう。140mmHgとは、水銀の柱を140ミリ、すなわち14cm押し上げる力です。水銀は重い金属で、比重が血液の13倍あります。ですから水銀柱14cmは、血液だとその13倍の182cmに相当します。人の背丈以上の高さまで、血液を押し上げる力が、人体の内部に常に普通にあるのです。

筆者は少年の頃、黒澤明監督の映画「椿三十郎」を見て驚愕しました。最後の対決シーンで、椿三十郎(三船敏郎)が抜刀ざま、室戸半兵衛(仲代達矢)の胴を一瞬に切り払うと、半兵衛の胸の当たりから大量の血が、まさに182cmほど天空に向かって噴出したのです(右の写真)。

映画ですからもちろん誇張もありますが、物理的な力として、血圧にはこのくらいの力があります。そしてもちろん、血管にはそれに耐える構造や耐久性があります。ですから血圧とは、182cm(140mmHg)の噴出は良いが195cm(150mmHg)の噴出はダメ、といった細かい話ではありません。就職の面接でも結婚式のスピーチでも、血圧は上がります。ここぞという時に、血圧は上がった方が良いのです。測り方でも変わります。このように血圧とは、かなりアバウトなもので、幅があって良いのです。
高血圧には2種類ある
明らかな原因があって高血圧になることがあります。それは「2次性高血圧」と呼ばれ、高血圧患者の5%程度だと言われています。それは病気ですし、病気が治れば血圧は下がります。それはこの本の対象外です。年を取って自然に血圧が上がる現象を、医療者は「本態性高血圧」と呼んでいます。


その名称は、医療者が、高血圧になる原因が分からないので仕方なくつけたものです。しかし皮肉なことにそれは事の本質を言い表しています。形態とか状態という言葉があるように、態という文字は「ものの様子」という意味です。本態性とは、ものの本来の様子ということです。ですから本態性(高)血圧とは、人の血圧の本来のありようという意味になります。この本で「下げてはいけない」と言うのはこの本態性高血圧です。人の血圧の本来のありようを、むやみに下げてはいけないということです。
米国フラミンガム調査
人の血圧が年令とともに上がることをはっきりと示すデータがあります。米国フラミンガム市(ボストン郊外)で戦後すぐの1949年から、約50年間継続された調査の結果です。世界的に有名な調査で、次図はその内の「血圧の年令変化」を、カリフォルニア大学のフランクリン教授がまとめたものです。


さっき見た推論値のグラフと似ていますね。理論でも現実でも、人の血圧は年齢とともにこのように変化するということです。

この調査の大きな特徴は、同一人物を、その人が30代から80代になるまで、50年以上にわたって継続して観察したことです。そのデータが2036人もあるのです。ですからこのグラフは、人の血圧は年を取るとどう変化するかを、多数の実例で示しているのです。調査対象は、調査開始時の血圧別に、4つのグループに分けられています。筆者がそれら全部を平均したのが赤い線です。
よくある年令別の血圧は、一度に多数の人の血圧を測って、それを年令順に並べたものです。それでも一応のことは分かりますが、フラミンガムでは同一人物を50年間追跡していますから、まさに人の血圧が年令とともにどう変化したかが調べられたわけです。しかもその時代には、血圧降下剤はほとんど使われていませんでしたし、使っている人がいても、そのデータは注意深く補正されました。ですから自然な変化が集計できています。そして人の血圧は年令とともに上がることが、はっきりと示されました。30代では110から130くらいだった血圧が、4つのグループとも少しずつ上昇して、平均では85才で140近くになり、高いグループでは160を越えています。それでみんな元気に生きてきたのです。50年間生きて80才を越えたからこそ調査ができたわけです。

年令+90 まではOK
日本ではつい30年ほど前の昭和の時代まで、血圧は「年令+90」まではよいとされていました。 50才なら140、60才なら150、70才なら160まではよいということです。医療者はこれを「古い考え」だと切り捨てますが、そんなことはありません。これはフラミンガム調査の結果とも良く一致していますし、理論的にも説明がつく、十分に合理的な考えです。高血圧になると、血管が破れるというリスクがあります。しかし血圧不足では体の隅々まで血液が届かないリスクがあります。どちらをとるかという選択で、人類は血液を届けるのが先決だとして健康を維持してきたのです。フラミンガムの調査は、はっきりとそのことを示しています。
日本人の血圧を示す70万人調査
東海大学医学部の大櫛陽一名誉教授は2004年、70万人を対象とする大規模な研究調査で、健康な日本人の血圧が実際にどのくらいかを示し、著書「血圧147で薬は飲むな」(小学館)の巻末で紹介しています。
調査は男女別、年齢別の詳しいものですが、それを簡略にして、30才から75才までの健康な日本人の血圧がどうなっているかを次図に示します。

黄色い帯の部分に健康な人々の95%が入っています。この帯の中にいれば、だいたい健康です。もしあなたが60才で血圧が140なら、グラフでは赤い星印になります。中央の、色が濃くなっている部分は、50%の人々がそこに入っている帯域で、人数がたくさんいて、ちょうど山脈の尾根のようになっています。この尾根から外れている人は、尾根の中に入るように少し生活を改善しても良いでしょう。

新潟大学名誉教授の岡田正彦氏は、最新の著書「血圧の薬はやめてもよいか?」(青灯社)で次のように正常値の定め方を紹介しています。

血圧に限りませんが、正常値は国際的に次のように定義されています。
「健康と思われる多数の人たちに対して検査を行い、その結果から95%の人たちが含まれる範囲」
95%としているのは、どんな集団にも特異体質の人が必ずいますから、極端に検査値が高すぎる人や低すぎる人を除外するためです。

ですから、上のグラフで黄色い帯の中にある人は、正常だということです。このグラフは、人の血圧は年令とともに上がることを示しており、フラミンガム調査の結果と良く似ています。また年令+90 までならよい、という考えとも良く一致しています。このグラフは、健康な日本人の血圧の範囲を示しています。

血圧185まで血管は破れない
大櫛名誉教授はまた同書で、アメリカの有名な医学誌に「血圧185までは血管は破れない」という研究論文が出ていることを紹介しています。脳梗塞を治療する薬として、t-PAという薬があります。脳梗塞が発症した初期にこれを投与すると、血管を塞いでいた血栓が溶けて、何事もなかったように回復するという、夢のような薬です。ところがこの薬には1つ弱点があります。それは投与中にどこかの血管が破れると、血が止まらなくなり、失血で死ぬおそれがあることです。そのため、投与中にその患者の血管が破れるかどうか、という研究が行われ、その結論として、出血の病歴などがなければ、185までは血管は破れないから投与してOKという、アメリカの救急医療基準が定められたのです。

高血圧の基準値が下げられた
日本高血圧学会は、高血圧の基準値を定めています。その基準値は2000年に、それまでの160から140に引き下げられました。さらに2004年には130を目標にするとされました。ですから今、「130を越えたら飲み始めましょう」と言って血圧を下げる健康食品がテレビでさかんに宣伝されています。
基準値が下げられた結果、高血圧患者が急増しました。前掲の70万人のグラフに血圧130のラインを引いていますが、この線より上を高血圧とするなら、60代以上では大半が高血圧にされてしまいます。
そして血圧降下剤の販売量が激増してきました。下図は松本光正医師が著書「高血圧はほっとくのが一番」(講談社)で紹介している、日本の血圧降下剤の売上げの推移です。

血圧基準を下げた2000年当たりから、売上げが急上昇しています。この大量の血圧降下剤で、日本人の血圧は無理やり140以下、あるいは130以下に下げられています。しかし「血圧は必要」なのです。必要な血圧をむやみに下げたら何が起こるか。脳に血が行かなくなり、脳梗塞と認知症が増えるはずです。そして日本の社会は実際にそうなっています。

目次      第2章 日本高血圧学会の誤り

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