第1章

核発電とは何か

原子力が分かりにくいのはなぜか
原子力の話が一般の人に分かりにくいのは、専門家の話がいきなり「核分裂」から始まるからです。「核が分裂するんですよ」「ふーん、そうですか」と分かったような気になっても、根本のところで釈然としません。核分裂のもうひとつ前の段階から話を始めないといけないのです。そうすれば、別に難しいことではありませんから、誰でもよく分かるようになります。

燃えるとはどういうことか
まず、ふつうの「燃える」とはどういうことか。上の図で、右側は植物が生長していく様子です。
私たちが小中学校で習ったことは、植物は大気中から二酸化炭素CO2を吸収し、土中から水H2Oを吸収して、それらを材料にして太陽のエネルギーを利用して炭水化物(幹や葉や実)を作り、酸素O2をはき出すということです。これを光合成(昔は炭酸同化作用といった)という、と習いました。
しかし実は本質はちょっと違います。本当は太陽の光が主役なのです。二酸化炭素と水は脇役です。「植物は二酸化炭素と水を利用して太陽の光を体内に閉じこめる」のです。つまり植物とは、太陽のエネルギーが蓄えられたもので、植物は太陽の恵みを炭水化物という形にして地球上に固定する仕事をしているのです。
つぎに、木が燃えたとします(左の絵)。それは、植物の中にある炭水化物が、大気中の酸素と再び化合(酸化=燃焼)して、二酸化炭素と水に戻り、蓄えてあった太陽のエネルギーを放出する現象です。木が燃えて出る熱や光は、もともと太陽のものだったのです。そして放出されたエネルギーはやがて宇宙へと戻ってゆきます。これが「燃える」という現象です。

動物は太陽仕掛けで動いている
木と同じように、畑でできる「かぶら」も、太陽の光が姿を変えたものです。それをウサギが食べたとします。ウサギはかぶらを消化して、一方で肺から酸素を吸って、食べたかぶらの炭水化物と酸素とを体内で化合させて、かぶらに蓄えられていた太陽のエネルギーを取り出します。うさぎはそのエネルギーで心臓を動かしたりピョンとはねたりします。そして二酸化炭素を吐き出し、水と熱を放出します。
おもちゃが動くのに、ぜんまい仕掛けとか電気仕掛けとかありますが、うさぎは太陽仕掛けで動いているのです。ライオンはうさぎを食べて、これも太陽の力で動きます。海のプランクトンもイワシもマグロも、地球上のほとんどの動物は、植物を通じて太陽のエネルギーで生きています。もちろん人間もです。

地球上の物質は不変、輪廻転生している
この「燃える」という現象を元素の側から見ると、炭素や酸素や水素は、ある時はかぶらになり、ある時は木になり、ある時はうさぎになり、ある時は空気になって、くっついたり離れたりしてグルグルと回っています。しかし炭素は炭素のまま、酸素は酸素のままなのです。地球上における生命体の活動は実際に、物質としては変わることなく、お天道様のもとで何億年も輪廻転生を繰り返してきたのです。燃えても原子は不変です。炭素原子や酸素原子は、くっついたり離れたりしているだけで、原子そのものは変化しません。原子の中心にある核もまったく変化しません。地球の物質は何億年も、変わることなく輪廻転生を繰り返してきたのです。

原子とはどういうものか
二酸化炭素CO2は、炭素原子Cが1つと酸素原子Oが2つとが電子の力で結びついた(化学結合)ものです。原子とは上図のように中心に核があり、その周囲を電子が回っています。炭素原子は核の中に陽子(赤色)というものが6個と中性子(緑色)というものが6個あります。そして核の周囲を電子(青色)が6個回っています(左)。これが炭素です。酸素原子は核の中に陽子が8個、中性子が8個あり、周囲を8個の電子が回っています(右)。
その物質が何かは核の中の陽子の数(原子番号と言います)で決まります。陽子6個は炭素です。炭素の原子番号は6です。陽子8個は酸素です。酸素の原子番号は8です。陽子が7個というものもあります。それは窒素です。陽子が1個だけというものもあります。それは水素です。陽子1個から百個以上まで、つまり原子番号1から百以上まで、宇宙には百種類以上のいろいろな元素があります。
原子力では物質が変わってしまう
地球上では原子は不変です。ところが原子力では、原子の中心にある原子核が割れます。原子核が割れると中から強くて大量のエネルギーが放出されます。このことを人類は約100年前に知りました。レントゲン博士とかキュリー夫人とか、アインシュタイン博士などの大勢の物理学者の研究によって、そのことが解明されたのです。割れてできる2つ、3つの破片の原子は、原子番号が半分くらいになっていますから、元の原子とは違う原子です。そしてもう元にはもどりません。つまり原子力の世界では物質が変わってしまうのです。原子力は地球上での生命や物質の輪廻転生とはまったく異なる現象で、それは太陽や星の内部で起きている宇宙の現象です。

核分裂
酸素や炭素などの小さな原子の核はなかなか割れません。原子力で利用されるのはウランという大きな原子です。ウランの核には陽子が92個(原子番号が92)あり、中性子が143個あって、陽子と中性子の合計は235個です。これをウラン235と言います。炭素や酸素と比べてはるかに大きな核です。ウラン235はある時間経つと自然に割れてエネルギーを放射する性質(放射性)を持っています。しかし自然ではなかなか割れません。しかし外から中性子を入れてやるとすぐに割れます。原子の核が割れることを核分裂と言います。核分裂すると核の中から巨大なエネルギーが放射線の形で出てきます。
ウランが核分裂すると、割れた破片は陽子の数(原子番号)が半分くらいの別の原子になります。たとえばセシウムとかヨウ素とかコバルトとかストロンチウムになります。新聞やテレビで、セシウムだとかヨウ素だとか言っているのはこのことで、福島の原子炉で割れたウランが違う物質になった結果です。割れ方は決まっていませんからいろいろな物質ができて、新しくできた物質もたいていはさらに割れる性質(放射性)を持っています。

連鎖反応
ウランは、割れるときに2個以上の中性子を放出します。中性子が2個以上出るのが、ウランのエネルギーを取り出せるようになった大きなポイントで、中性子は近くに2つのウランがあるとそれに吸収されます。中性子を吸収した2つのウランはすぐに核分裂を起こして4つ以上の中性子を放出します。近くに4つのウランがあると、中性子はそれらのウランに吸収され、また核分裂が起きて8つ以上の中性子が出ます。これを連鎖反応といいます。「近くにある」とは密度が高いということです。ウランを密集させると連鎖反応が起こります。
臨界に達する
連鎖反応が始まることを「臨界に達する」と言います。福島の事故で、「再臨界したのではないか」と言われているのはこのことです。
福島では、ウランから生成されていた新しい物質が割れる熱で、燃料棒が溶けてしまいました。、溶けてグチャグチャになってしまうと、何かの拍子にウランが集まって連鎖反応が始まってしまうおそれがあります。連鎖反応が始まると一瞬で爆発が起こり、すると核燃料はまたバラバラになって連鎖反応が止まります。福島では事故後も青い閃光が何度も出ていましたから、再臨界が繰り返し起きていたのではないかと言われています。

原子力発電の原理
お湯をわかすと蒸気の力で「やかん」のフタがパクパクと動きます。この蒸気で羽根車を回し、羽根車に連結されている発電機を回すと電気が生じます。これが火力発電の原理です。かまどで石炭を燃やせば石炭火力、石油を燃やせば石油火力です。羽根車を風で回せば風力発電、水を上から落として回せば水力発電です。ジェット機のエンジンのように燃焼ガスで回すのがガスタービン発電です。人力で回すのが自転車のランプです。
原子力発電では、かまどでウランを核分裂をさせます。そして制御棒を出し入れして、中性子の数やスピードを制御しながら、ゆるやかに連鎖反応が起こるようにします。ちなみに連鎖反応が一瞬にして起こるのが原爆です。
原子力発電は、かまどの火に核分裂を用いるところが違うだけで他は石炭や石油と同じ、原理的には古い技術です。テレビで、圧力容器だとか格納容器だとか、肉厚が何ミリだとか、何かすごいもののように解説していましたが、単に「原子力やかん」のことですから、たいしたことではありません。

核(Nucleus)は原子(Atom)よりずっと小さい
原子(Atom アトムと言います)全体と、その中心にある核(Nucleus ニュークリアスと言います)とでは、両方とも目に見えない小さなものですが、大きさが全然違います。原子は核の10万倍くらいの大きさがあります。
たとえて言うと、核が野球のボールだとすると、原子全体は野球場よりずっと大きくなります。ですから原子のレベルの話をしているのか、核のレベルの話をしているのかは、野球場の話をしているのか、ボールの話をしているのかくらいに違う話なのです。学問でも原子の物理と核の物理は分野が違います。
核はまだ研究段階にとどめるべき
人類の知恵はまだ核を制御できるレベルには達していません。福島の状況を見れば、核がまだまだ人類の手に余るものであることは明らかです。エネルギーの取り出し方が分かっただけで、火の消し方を知りません。いったん暴走したらヘリコプターや放水車で水をかけることしかできません。
核について理論や実験で研究し解明してゆくのはよいことです。やがて新しい技術も進むでしょう。しかし現段階では、核から大規模にエネルギーを取り出して発電することは人智に余ることであり、地球生命全体にとって危険ですからやめるべきです。おそらく将来も、核のパワーの賢明な利用法は今の形の原子力発電(軽水炉型)ではないでしょう。せっかくの核の力でお湯を沸かすだけというのがセンスが悪いのです。

放射線は強いエネルギーをもつ
さて、原子核の中から出てくる放射線は、地球の生命活動のエネルギーのレベルよりもずっと強いエネルギーを持っていて、やすやすと人体などを貫きます。それを利用したのがたとえばレントゲン撮影で、放射線(X線)が人体を貫いて反対側のフィルムを感光させます。また、核のエネルギーは量も膨大です。たった1kgくらいのウランやプルトニウムの核爆弾で、広島や長崎の町が全滅するほどのエネルギーが出てきます。
放射線は細胞を貫き遺伝子を破壊しDNAを破壊します。DNAは生命活動の根本になる情報です。うさぎがうさぎであるのも、かぶらがかぶらであるのも、DNAの情報によっています。それが破壊されると生命の継続ができなくなり、細胞が暴走して「がん」になったり「奇形」になったり、死んだりします。放射線は生命活動の敵なのです。
何億年も前には地球にもかなりの放射能がありました。今でもそれが少し残っていますが、生命体はそういう自然放射能には対応できるように進化してきました。摂取しても代謝機能が働いてすぐに排泄できます。しかし原発や原爆による人工的な放射性物質はなかなか排泄できず体内に留まってしまいます。ですから人工放射能は自然放射能よりずっと危険なのです。

プルトニウムによる内部被曝
これは2011年に長崎大学で撮影された写真で、それをNHKが報じていたときのテレビ画面です。長崎の被爆者の組織標本が残されていて(本人は亡くなっている)、それを顕微鏡で見ていたら放射線が走ったという写真です。線が直角に折れているところにプルトニウムがあり、そこから左右にアルファ線が出ています。アルファ線は光ではなく粒子で、質量が大きく、周囲の細胞にダメージを与えてガンを引き起こします。
実際に人体細胞の中で放射線が出ている映像が撮られたのは、これが世界で初めてということです。戦後60年以上たって本人が死んでいても、体内に取り込まれたプルトニウムは放射線を出し続けます(内部被曝)。プルトニウムの放射能は半減するのに2万年以上かかります。(半減期2万4千年)

ドイツで小児がんが2倍に
2007年、ドイツ政府(環境省)は、綿密な調査の結果、原発周辺5kmの地域で小児がんが増加していると発表しました。全ての小児がんで見ると約6割(1.61倍)の増加、小児白血病だけを見ると約2倍(2.19倍)の増加になっていました。この調査はドイツ政府が行ったものであり、原発推進派と反対派が共同で行っており、データには疑いがないということでドイツの世論を大いに揺るがせました。福島事故を見て、いまドイツ政府が脱原発に舵を切ったのは、この調査結果があったからです。
原発から放射能が排出されている
ここで重要な点は、原発が事故も無く正常に動いていても、こういうことが起きているということです。
なぜ正常に運転されている原発の周囲でガンが増えるのでしょうか。それは原発から放射性物質が、さまざまな形で日常的に排出されているからです。原発内では水が漏れたり蒸気が漏れたりする、大小の事故がしばしば起きています。衣服や消耗品が放射能汚染されて保管されていますが、そこから放射能が大気中に出ることもあるでしょう。何かのことで炉の圧力が上がると、高い排気塔から緊急のベント(排気)が行われることもまれではないと言われています。そもそも排気塔はそのために作られています。冷却海水も放射能で汚染されています。汚染濃度が基準値を下回れば排水してもよいという規則ですが、濃度を下げても大量に排水すれば大量に放射性物質が出て行き、海が汚染されます。原発で周辺海域の漁業権が電力会社に買い上げられるのはそのためです。

アメリカで乳ガンが増加
アメリカの統計学者J.M.グールドは、全米の3053郡が保有していた40年間の乳ガン死亡者数のデータを分類して、1319郡(43%)で乳ガン死者数が増加し、1734郡(57%)で横這いか減少していることを示しました。そしてそれを原発の有無で比較したところ、原発から100マイル(161km)以内にある郡では乳ガン死亡者数が増加し、原発から100マイル以上離れた郡では横這いか減少していることを見出しました。上図で、上は原発があるところ、下は乳ガンが増えているところです。
この研究からただちに原発が乳ガンを増加させているという因果関係が言えるわけではありませんが、その可能性があることが示唆されました。

日本の乳ガン発生数
上のグラフは、厚生労働省による日本の女性の10万人当たりの乳ガンの発生数の推移(ピンク)と、日本の原発出力総量の推移(青)とを5年おきに並べたものです。乳ガン発生は10万人に対して70人程度ですから、9万9千9百人までは何ともなく、誰もが乳ガンになるわけではありませんが、増加傾向は一致しています。今後も増えそうです。
乳ガンが増加している原因として、動物性脂肪や乳製品を多く摂取するようになってきたことが有力な因子として挙げられていますから、このグラフからただちに、原発が原因で乳ガンが増えているとは言えません。しかし、グールド博士の研究や肥田医師の研究と併せて考えれば、原発の増加と何らかの関係があっても不思議ではありません。関係があるかないかは日本の原発を全て止めれば分かります。止めた後に乳ガン発生数が減るか横ばいになれば、関係があったということになるでしょう。

生命の楽園=地球
宇宙は星々から放射される放射線(宇宙線)で満ちています。ですから宇宙空間ではふつうの生命体は生きていられません。ところが地球は、その放射線から奇跡的に守られています。
地球には地磁気があります。また、バクテリアやプランクトンやサンゴなどの何億年にもわたる活動によって、大気が作られ高等生物が生息できる環境が出来てきました。大気と水蒸気と地磁気のおかげで地球は宇宙からの放射線をさえぎることができ、生命の楽園になりました。
楽園の範囲は、せいぜいエベレストの頂上まで10km、日本海溝の底でま10km、上下で20kmくらいです。地球の直径が12000kmですから、20kmはその600分の1です。直径60センチの円を描くと1ミリくらいの幅の線になります。それは上図の地球の青い枠の線の太さよりも細い範囲です。つまり薄皮まんじゅうの薄い薄い皮の中で、人も獣も鳥も魚も虫も草も木も奇跡的に生きているのです。
ところが原爆や原発は、その薄い皮の中でウラニウムを集積して密度を高め、連鎖反応を起こして放射線を出します。それは生命の楽園に宇宙の暴力的なエネルギーを持ち込む行為です。それは地球のあらゆる生命体が望まない行為です。

核はこの世のものではない
宇宙は核分裂や核融合などの核のエネルギーによって運行されています。核のエネルギーは宇宙の混沌のエネルギーであり、「この世のものではない」と言って言えなくもありません。なぜならまず、核のエネルギーは地球上には自然状態ではほとんど存在しません。次に、それは生命の輪廻転生を破壊します。ですから、生命の楽園となって輪廻転生している地球を「この世」と見れば、原発は「この世のものではない」ことになります。しかも福島の事故ではっきりしたように、人類はまだ火の消し方を知りません。そして先述したように、原子のレベルと核のレベルとでは、野球場と野球のボールほどにも違う話です。原子のレベルでの森羅万象は生命活動の範囲内であり、なんとか人智の及ぶところですが、核のレベルになるとまだまだ人智は及ばず、「この世のものではない」のです。
ウランから生成された原子番号94の人工的な原子に、物理学者たちはプルトニウムという名をつけました。その名の由来はヨーロッパの神話に出てくる「プルート」、すなわち「冥界の王」「死の世界の王」です。物理学者たちも、プルトニウムは「この世のものではない」と、暗黙のうちに認めているのです。

「核発電」と呼ぶのが正しい
原子力発電のエネルギーは原子のレベルではなく、核の中から出てきます。ですから原子力発電という言い方は正しくなく、「核発電」と言うのが物理学的に正しい言い方です。しかし日本には「核発電」という言葉はありません。原発を推進する側が「核」という言葉を避けたからです。
英語圏やフランス語圏では「原子力発電」とは言わず、「核(ニュークリアー)発電」と、はっきりと言います。世界のあちこちでデモ隊が「NO NUKES」というプラカードを持つのは「核(ニューク)はやめろ」という意味です。上の写真のように、日本のデモでも「NO NUKES」というプラカードがふつうに使われています。ですから「核発電」という言葉は奇異でもなく難しくもありません。核による発電はそのまま「核発電」と呼ぶべきです。核発電は、生命に敵対する、人類の手に負えないエネルギーを大量にこの世に解き放つ行為です。核発電と呼ぶことで、そのことがはっきりと認識できます。本書ではここから原発のことを「核発電」と表記します。
ここまでは核発電の物理的、思想的な話でしたが、経済行為である核発電については経済的、社会的な観点から議論する必要があります。次章では核発電が経済的、社会的に利益をもたらしていないこと、必要がないことを明らかにします。

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