将棋連盟は将棋の魂(名人位)を読売新聞に売った

2017.01.14

 全国の将棋ファンが日本将棋連盟に対して激怒しています。
将棋連盟自身の地方支部員たちも激怒しています。

私はこの40年ほど将棋界を見てきましたが、今回の事件は将棋界の最大の危機であり、しかし逆に数十年に一度の大変革のチャンスでもあると思っています。これから10年かかる大変革の担い手は当然、実力、人望ともに秀で、40代後半の円熟期を迎えた羽生善治氏をおいて他にはありません。いま将棋界に羽生善治の存在があることは、将棋界にとって大いなる幸運です。

しかし・・・将棋連盟の理事たちや多くの棋士たちには現在の危機が理解できません。連盟は1月5日に何事も無かったかのように、のうのうと「指し初め式」を執り行いました。下はその時の様子です。将棋会館の前にある鳩の森神社の境内です。

一番左であいさつをしているのが谷川浩司会長です。整列している第1列は左から渡辺明(カッコ竜王)、佐藤天彦名人、羽生善治三冠、郷田真隆王将、佐藤康光九段、森内俊之九段、青野照市専務理事 です。第2列の左端は島朗常務理事、次の日焼けした人が中川大輔常務理事です。
これから「おめでとうございます」と唱和して御神酒を飲もうとしている所です。
これらの会長と理事たちが三浦処分を決めたわけですが、第3者委員会の完全シロ裁定が出た2日後の、将棋ファンから隠れた「覆面」記者会見で、谷川会長は質問に対して「まだ全文は目を通してないんですが・・・」と発言しました。2日あって読んでない、それを言う? びっくり仰天です。
青野専務理事は第一声で「シロかクロかという問題ではないんです」と発言しました。これもびっくり仰天ですが、実際連盟はせっかく三浦九段が提出したパソコンの中身をまったく調べようともしなかったわけで、シロかクロかはどうでも良かったのです。またせっかく第3者委員会が雇い主の顔を立てて、連盟の処置はあの時は時間が切迫していて「やむを得なかった」と言ってくれたのに、わざわざ「あの時選択肢は3つあって、1.三浦を交代させる、2.放置して週刊誌に叩かれる、3.竜王戦を延期するの3つあったわけです」と発言しました。「やむを得なかった」という助け船を自分で否定して、3つのうち彼らにとっては最もイージーに見えた方法、シロでもクロでもとにかく三浦処分、という選択肢を採用した、と自白しているわけです。
島常務理事は第一声で「竜王戦が無事に終わって良かった」と発言しました。
無事って? 連盟が挑戦者を無理矢理交代させて、渡辺(カッコ竜王)が5000万円ゲットすることまでをもって「無事」と言っているわけです。
中川常務理事は、三浦九段が1月3日4日のヤマダ電機主宰の上州将棋まつりに、例年通り地元の英雄として出たいと希望しているにもかかわらず、勝手にヤマダ電機に電話して、「三浦が出たくないと言っています」とウソをついて、三浦を出場停止にしました。
今回の事件にメリットがあるとすれば、将棋連盟の理事たちが不実で無能であることが全国民的に露呈したことで、これでむしろ大変革がやりやすくなった面があります。

棋士の序列

さて本題ですが、写真の並び方は将棋連盟が決めている棋士の序列を表しています。
一般の方には不思議に思えるかも知れません。
え、名人が一番じゃないの? 誰だってそう思うはずです。

実際、徳川家康が名人を指名してから何百年も、日本の将棋の第一人者は「名人」でした。 江戸時代は名人は世襲制でしたが、江戸幕府が倒れたあとは将棋指しの生活も困窮し、有力者や富豪にパトロンになってもらい、細々と将棋を指していたわけですが、十二世名人から名人位を贈られた関根十三世名人が英断を下して、実力名人制として将棋大会を開きました。そこで優勝したのが木村義雄で、関根名人は名人位を木村に譲りました。そして永世名人位(名人位を5回獲得した人が永世名人になる)は木村十四世、大山十五世、中原十六世、谷川十七世、森内十八世、羽生十九世と実力で引き継がれてきました。
だからどうしたって名人が一番なのです。 ところが今はそうではなく、日本将棋連盟は竜王が第一人者だとしているのです。 なぜそんな奇妙なことになったのか?
それは日本将棋連盟が、読売新聞という強欲新聞社に、名人が一番という日本の将棋ファン、のみならず全国民が共有していた当たり前の概念を、毎年4億円という契約金に目がくらんで売り渡してしまって、その金を仲間内で分け合ってしまっているからです。
読売巨人軍のふるまいでも分かるように、読売新聞社には金にあかせて威張り散らす宿痾の体質があります。トップから末端の拡販員までそういう体質です。その読売新聞社が日本将棋連盟に対して、毎日新聞(名人戦のスポンサ-)ごときに負けているわけにはいかない、名人戦に匹敵する棋戦を作ろう、金もたくさん出してやろう、ただし今後は棋士の序列第一位は竜王だぞ、分かったな、とせまって、将棋連盟がそれを受け入れたわけです。今から約30年前のことです。
しかし棋士の序列ははっきりしています。それは順位戦で決まっています。

名人 A級10人 B1級13人 B2級23人、C1級37人 C2級51人のクラスがあって、各クラスで1年間戦い続けて成績順に並べて、優勝、準優勝が上のクラスに上がり、下位2人が下のクラスに落ちます。棋士たちはプロデビューしてからずっと順位戦を戦っているのです。そして名人位に挑戦できるのはA級優勝者と決まっています。ですから名人になるにはC2 C1 B2 B1 Aと昇級して最短でも5年かかるわけです。

現在の順位を各クラスを通して並べると以下のとおりです。

1位 佐藤天彦名人

 2位 羽生善治三冠
3位 行方尚史八段
4位  渡辺明(カッコ竜王)
5位  佐藤康光九段
6位  屋敷伸之九段
7位  森内俊之九段
8位  広瀬章人八段
9位  深浦康市九段
10位  稲葉 陽八段
11位  三浦弘行九段

12位  郷田真隆王将
13位  久保利明九段
14位  松尾 歩八段
15位  橋本崇載八段
16位  木村一基八段
17位  豊島将之七段
18位  丸山忠久九段
19位  谷川浩司九段
20位  阿久津主税八段
21位  山崎隆之八段
22位  畠山 鎮七段
23位  糸谷哲郎八段
24位  飯島栄治七段

25位  村山慈明七段
26位  先崎 学九段
27位  菅井竜也七段
28位  藤井 猛九段
29位  阿部 隆八段
30位  野月浩貴七段
31位  戸辺 誠七段
32位  澤田真吾六段
33位  飯塚祐紀七段
34位  田村康介七段
35位  北浜健介八段
36位  青野照市九段
37位  中川大輔八段
38位  佐々木慎六段
39位  森下 卓九段
40位  中村 修九段
41位  畠山成幸七段
42位  窪田義行七段
43位  中田宏樹八段
44位  鈴木大介八段
45位  井上慶太九段
46位  中村太地六段
47位  斎藤慎太郎六段

 以上A級とB級
C級は省略

この序列を勝手に変えて、序列4位の渡辺(カッコ竜王)が第一人者だとするのは無理があります。あるいは一昨年の竜王は序列23位の糸谷八段でしたが、これで第一人者とはひどすぎる話です。
竜王戦は他のタイトル戦と同様に、棋士であれば誰でも優勝してタイトルを取れる仕組みになっています。何年もかけて昇級して・・・という仕組みは部外者の新聞社には作れませんから、そういう制度設計しかできないわけです。ですから、去年棋士になったばかりの中学生の藤井四段も今年竜王になる可能性があるのです。それで第一人者はないだろうとは、誰しも思うことですが、それがどうした、これだけ賞金を張り込んでいるんだから読売が一番に決まってるだろ、金額で勝負だ、というのが読売新聞という会社です。
ちなみに下のグラフは、佐藤天彦名人、羽生善治三冠、渡辺明(カッコ竜王)の順位の推移です。 

佐藤天彦名人は2011年以降は順位戦で54勝7敗、勝率八割八分の驚異的な成績で昇級して一挙に名人位に到達しています。実は永世名人を獲得している棋士の昇級ぶりは、中原、谷川、羽生などだいたいこのような「ぶっちぎり」です。周囲よりダントツに強いわけです。羽生三冠は1985年にプロデビューし、1994年に最初の名人位に就いています。その後20年以上ずっと最上段付近に張り付いたままです。佐藤天彦名人も同じようなスピードですから、彼が二十世名人になる可能性はかなりあるでしょう。(将棋界が存在していれば)
渡辺(カッコ竜王)は17年もかかってNo2(名人位への挑戦者)になったこともないわけですから、これを第一人者と言うのは、実力的にも無理があります。ましてや渡辺(カッコ竜王)が竜王になったのは印の、C級五段の時で、それを第一人者と言っては将棋界はメチャクチャです。
読売新聞がしゃしゃり出て来ると、いろいろな方面でこういうおかしなことになります。会社の宿痾の体質と言うしかありません。実は今回の事件にも、読売新聞が裏で了承していなければ、こうはならなかっただろうという面があります。

名人位と他のタイトルとの違い
10年ほど前に当時の米長邦雄会長が、「毎日新聞が金を渋っているので名人戦を朝日新聞に移す」と言って将棋界が大騒ぎになったことがあります。毎日新聞の窮状を横目で見て、自分が主宰する棋戦が人気がなくて困っていた朝日新聞社が名人戦の奪取を画策したのです。しかし羽生さん、森内さん、佐藤康光さんなどのトップ棋士は揃って、これまでの毎日新聞の恩義を裏切るようなことはできない、と棋士総会で反対意見を述べました。
結局は、毎日新聞と朝日新聞が共同でスポンサーになることで決着し、将棋連盟はそれまでよりたくさんの収入を得ることになりました。米長会長はいろいろと問題がある人でしたが、こういう政治手腕には長けていて、今回の騒動も米長さんならどう裁いたか、と懐かしむ人がたくさんいます。
私は当時、そもそも毎日新聞が主宰している名人戦を他の新聞社に移すなどということが出来るのか、そんな権利が将棋連盟にあるのか、と疑問でしたが、その時、米長さんが言ったことがたいへん明快で感心しました。
米長さんはこう言いました。
名人戦は日本将棋連盟のものである
先に名人戦の歴史を少し述べましたが、棋士全員が毎年順位戦を戦い、その頂点に名人位を置くという、小学生が奨励会に入門するところから始まる実力名人制のピラミッドの仕組みは、日本将棋連盟が自分たちのために作ったもので、それを実施するために誰かお金を出してくれませんかと呼びかけ、呼びかけに応じて最も高い金額をオファーした毎日新聞がスポンサーになったのです。ですから、毎日新聞の拠出額が不満だったら他のスポンサーを探せばよいということになります。

他のタイトル戦は違います。他のタイトル戦はすべて、スポンサーが作ったものです。ですから将棋連盟がそれをどこかに移すということはできないのです。
竜王戦は読売新聞が作った棋戦です。ですから仕組みは読売新聞が自由に決めれば良いことで、将棋連盟はそれが気に入らなかったら断ればよいのです。しかし、「竜王位は名人より上だ、なぜなら賞金額が一番多いからだ」などというのは読売新聞社の金にあかせた横車でしかありません。巨人軍の監督を交代させるなど社内異動みたいなもんだ、と読売のトップが言って人気監督のクビを切ったことがあります。そういう体質の会社なのです。

将棋連盟はそんな理不尽な要求を「名人位は将棋連盟のものであり、将棋界の最高位である」と断固として拒否すべきでした。名人位は将棋連盟のものであり、将棋連盟はすべての将棋ファンのものであり、したがって名人位はすべての将棋ファンのものであり、全国民のものなのです。
その現在の名人が鳩の森神社で渡辺(カッコ竜王)の下風に立たされているわけで、これは将棋連盟がファンの気持ちをまったく理解できず、読売新聞のご機嫌をとっておけば自分たちに金が入ってくる、棋士が収入を得ること、それこそが将棋界の繁栄である、めでたい、めでたい、と考えていることの表れです。
現実の問題としては、アマチュアに授与される将棋の免状は名人と竜王の両者の署名になっていますし、NHK杯の中継では、棋士を紹介するのに、順位戦はA級、竜王戦は1組です、というように、竜王戦の格をアップしています。当然、読売新聞社が4億円でそれを要求しているわけです。
このようにして竜王戦が発足した30年前に、将棋連盟は全国の将棋ファンのものである将棋の魂(名人位)を読売新聞に売ったのです。

名人位は地位、他のタイトルは地位ではない
名人以外に竜王(読売新聞)、棋王(共同通信)、棋聖(産経新聞)、王座(日経新聞)、王位(地方新聞共催)、王将(毎日新聞)という6つのタイトルがあります。全てのタイトルが、箔をつけるために名人戦をまねて、タイトル保持者は1年間タイトルを保持し、次年度の挑戦者を待つという方式になっています。

しかしそうである必要も合理性もまったくないのです。

たとえばサッカーで鹿島アントラーズがチャンピオンになったら、アントラーズは1年間何もせずに挑戦者を待って、それで勝てばまたチャンピオン、などという方式にはなっていません。テニスのジョコビッチが、1年間何もせずに挑戦者を待っていて、それで勝てばまたチャンピオンなどということもありません。将棋も、優勝しても翌年はまた予選やリーグ戦に参加すべきです。NHK杯と同じです。
そしてそうであれば今回の事件も起きていなかったでしょう。竜王位を防衛することで翌年も自動的に竜王タイトル戦に出られて、たった7局の将棋で4勝すれば5000万円をゲットできて、負けても相当な対局料を得られる・・・つまり2倍おいしいわけで、もしかしたらそれが何年も続くかもしれないわけですから、やすやすと手放すわけには行かない・・・という誘惑があるわけです。
名人位は別です。名人位は将棋界の第一人者としてある程度安定した方がよいので、毎回予選から出るのではなく、今の挑戦方式がよいでしょう。かつては世襲制であった名人位ですから、もともと単なる優勝タイトルではありません。これは「地位、ポジション」なのです。他のタイトルは新聞社が箔づけのために地位を装っていますが、地位ではありません。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする