羽生さんの最善手

2017.02.03

細かい経緯は他のサイトを見ていただくとして、今回の三浦九段冤罪事件を羽生さんはどう認識し、どう行動したかを推理してみました。
まず、昨年10月10日に島常務に電話で呼び出されて、「なんのこっちゃ」と思いながら島の自宅に出かけて行くと、そこにお歴々が集まっていて、渡辺(カッコ竜王)と千田五段が、さかんに三浦九段の疑惑を言い立てていたわけです。
しかしどれをとっても決定的な証拠ではなく、そんなもので人を処分するなどとんでもないが、そこは何かを決める場所ではなかったし、自分は決める立場でもないので、そのまま散会になりました。
ところがその後、追うようにして島から「どう思うか」というメールが入り、仕方なく「島さんがそこまで言うなら島さんには確信があるのでしょうが、私にはそこまでの情報はないし、せいぜいグレーとまでしか言えません。そしてたとえグレーでも疑わしきは罰せずでお願いします」と返信しました。
ところが、12日に突然、連盟は三浦処分を発表しました。
そして20日に文春が発売され、そこに島に宛てた自分のメールが、「羽生は限りなく黒に近いと言っている」と、自分があたかも連盟の三浦処分を支持したかのように書き換えられてリークされ、掲載されていたわけです。
それを見て、羽生の明晰な頭脳は一瞬にして、これは渡辺と島による意図的な陰謀だ、と事件の本質を察知しました。そして自分はとにかく三浦九段を救出するために全力を尽くすと決意しました。そして、敵をいたずらに刺激することなく、どうやって三浦九段を救出し、ひいては連盟を救うかを思案しました。
その第一手が羽生夫人のツイッターでの反撃でした。文春の発売後ただちに、「自分は限りなく黒に近いなどと言っていない」と反撃しました。これは棋士の世論を、「え、羽生さんが怒ってるの?じゃぁ連盟がおかしいんじゃないか?」という方向に変えました。
第二手が第3者委員会設置の提案です。これを棋士会の大勢の中で提案することにより、理事会の動き(連盟の顧問弁護士によるおざなりな調査ですませようとしていた)を牽制し、実際に第3者委員会の設置に成功しました。連盟理事会がかなりな金額の第3者委員会の設置を、すんなりと決定できたとは思えません。おそらく羽生さんは、「費用は自分が出す」と言い、実際にそうしたでしょう。その後の羽生夫人のツイッターで「10月後半に主人は第3者委員会の設立のために奔走していた」という証言があります。普通は理事でもない羽生さんが奔走することなどありません。自分が言い出し、自分が金も出し、自分がやらなければ誰も動かない、という状況だったのでしょう。
羽生さんは但木委員長とも会って、この事件は島と渡辺による陰謀だと自分は思う、何とか三浦九段と連盟を救いたい、と説明したでしょう。羽生さんのその意気に応じての、あの第3者委員会の調査であり、あの結論でした。これによって羽生さんは、とりあえず三浦九段の救出に成功したわけです。
第三の手は、今年1月5日の連盟の指し初め式で「三浦九段の復帰を願う」と発言し、その復帰戦に2月13日の自分との対戦を指定したことです。これによって三浦九段の精神が大いに救われています。三浦九段は心機一転して、両者全力で対局するでしょう。羽生さんと戦えるなら三浦九段は本望なのです。勝敗は別として、それによって三浦九段は救われるのです。もともと三浦九段はそういう純粋な精神の持ち主です。羽生さんは昔からそれを良く知っているのです。
このように、この事件に関しての羽生さんの指し手は、ここまでは最善でした。
しかし問題はこれでは終わりません。むろん島と渡辺は除名すべきですし、事実を明らかにするために三浦九段も覚悟を持って裁判に訴えるべきです。

しかしそれよりもっと大きな問題があります。
いま、コンピュータの発達によって、将棋のプロとはなんぞや? という根源的な問いかけが発生しています。今回の事件の背景にはこの問題があります。
しかしチェスがコンピュータに負けたからといって、チェスの愛好家がいなくなったりしていないように、囲碁も将棋もなくなることはりません。特に将棋は少年たちを熱中させますから、なくなることはありません。ただ、それでメシが食えるかどうか、というプロのあり方が大いにゆらいでいます。

そこでどうするか。そもそも公益法人という存在と、賞金稼ぎ(プロ)という存在は両立しません。ですから明確に分離すべきです。

1つの案として、日本将棋連盟は、公益法人としてアマチュアの将棋の普及と発展につとめることとし、学校や職場や地域で将棋大会や指導教室を企画運営して将棋を盛んにします。これは単に将棋の技術だけでなく、少年少女たちにとっては、礼儀や人とのつきあいなどを学ぶ機会です。棋戦はテニスやゴルフと同じようにオープン化し、プロもアマも参加できるようにします。
一方で技量に優れた賞金稼ぎのプロは、日本将棋連盟から離れて一匹狼で生きるとか、自分でスポンサーを見つけるとか、あるいは必要ならプロの団体を作るなどして、さまざまなプロの大会を作り、日本で(世界で)一番強いのは誰かという名人戦を争ったりすればよいでしょう。
これを実現するには、日本将棋連盟の総会で、その意見が多数派にならねばなりません。しかしどんな社会でも、自分の身を切るような改革が多数派を占めることは考えにくいことです。引退棋士やぬるま湯棋士が、食い扶持をもらって安穏としている現在の将棋連盟では、そういう決定はできないでしょう。

ではどうするか、そこに羽生さんの存在意義があります。公益法人日本将棋連盟の意義と存在を残しながら、将棋界を時代にあったものにするには、羽生さんを中心とした人格と技量にすぐれた少数の「真のプロ」が、日本将棋連盟から独立すればよいのです。これは分裂ではなく独立、あるいは発展的解消です。
かつて関根金次郎名人が、名人の世襲制を廃して実力制に踏み切ったような、反動を怖れぬ捨て身の覚悟と構想を、羽生さんが棋士総会で提案し、みんなで1年間くらい議論すれば、きっと良い方向が見えてくるでしょう。ぬるま湯棋士たちも、単に反対しているだけでは羽生さんたちが抜けていくとなれば、真剣に考えるでしょう。
今回の事件を奇禍として、ぜひこういった大改革を断行して欲しいものです。羽生さんならそれができます。

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